029.
川村由紀
(VENUS FLY TRAPP)

2008.02.04.
『拝啓、同じ街で暮らす心のレジデントDJさまへ』

移り変わりの激しい夜の世界。
流行の音も目まぐるしく2年サイクルで更新されてゆく。
大きなクラブで催される海外からのゲストDJを招いたイベント。
かつての私はそんな現場で仕事をしていました。
心の奥では日本発の世界に通用するブランドを作りたいと願っていましたが、夢は簡単に叶わぬものです。

「ダンスフロアでクラウドはゲストDJを待ち続ける」
この街に暮らすDJが繋ぐビートで。
その光景を見ながらフロアの片隅で、少し虚しくて寂しい気持ちを見つけた。

「音楽に垣根はない」
それは確かに正論だし、間違いのない事なのだけれど、それだけでは片付けられない胸へと込み上げる不思議な想い、その意味を知りたかった。

「レジデントDJが、海外からのゲストDJを招く」
そんなイベントの図式がメインストリームを飾り占有している。
最近は主にハウスシーンに於いて、才能ある若手クリエイターが表れ始めた。

「感性にゲストなんてあるの?」
耳を中心に五感を研ぎ澄まして、本気で遊んでみれば感覚の体温を感じとれる。
その時間、私は言葉では足りない本当のリズム(音楽の鼓動)を吸収していた。
最近は特に実感してる。

同じ街に暮らし頑張っているレジデントDJは、話す事も出来るし想いも伝えられる。
伝えた想いを胸に、翌月再びレジデントDJのプレイを聴いて、失望する?それとも真新しい悦びを感じる?

「どちらかはわからない」とってもスリリングな時間軸。

その一ヶ月、私達の心の中にはレジデントDJが住んでいるのかもしれない。
頭に浮かぶターンテーブルを廻して、期待というビートを刻んでいる。

新鮮な遊びにトライしてみませんか?
同じ街に私達と暮らす「心のレジデントDJ」と。
プレイを終えて翌朝に自分の街へと帰ってゆくゲストDJも一緒に。
彼らには彼らのホームタウンがあって、ミュージックラヴァーが待っているから大丈夫。
私達は私達でレジデントDJのホームになり、一緒にゲストDJをウェルカムしようよ。

私は今、心から本当に楽しんでクラブで遊んでいます。
10年もかかってしまったけれど、「pool」という素敵な場所に辿り着けた。
SHIBATA、NEEMURA、SHIMA、心のレジデントDJが感性のDJブースでバックトゥバックをしている。
共鳴しあうBLIND ORCHESTRAのヴィジュアルパフォーマンス。
まだまだ引き続き見晴らしの良い世界は広がってゆく。

毎月レジデントDJの音に耳を傾け、DJが踏んだ時のステップ(進化)を知りたいと思う。
そんな最高で崇高でシャイな遊び、私達が忙しく働くこの街にはあるのだから。

前へ、前へと進んでゆこう。
キミに会えて良かったって、この音楽に出会えて良かったって、ダンスフロアの真ん中で微笑みながら。


text : 川村由紀 (VENUS FLY TRAPP)

川村由紀 (VENUS FLY TRAPP)
DJ、音楽演出家、作家。イベント「サウンドコレクション」のプロデュースを経て、2001年に「灼熱」でCDデビュー。ルイ・ヴィトン、ドレス・キャンプ、ラブパレード・メキシコなど国内外多くのパーティ、ショー、スペースにて音楽活動を展開中。2007年、ヴィレッジブックスより「アスファルトの帰り道」(著:川村由紀)で作家デビューを果たす。
公式サイト http://venusflytrapp.com/