030.
川村由紀
(VENUS FLY TRAPP)

2008.03.22.
『ファースト・レコード・オブ・ザ・ワールド』

魔法の円盤、それはレコード。
私の友人で、時代を越えた天才と想うミュージシャンが歌っていた。
時代は流れてゆく。

レコードで音楽を聴いていた頃、テレビから月面軟着陸の映像が流れ出した。
軽くて小さい銀色の円盤、CDに変わりすぐにバブルが崩壊した。
ケセラ・セラからスヌープ・ドギードック、アメリカのナンバー1は30年の間にソウルの表情すら簡単に塗り替えてしまう。

「何もない」と言われていた時代、魔法の円盤を自由自在に繋ぎ、新感覚のグルーヴを産み出し始めた指先があった。
ラリー・レヴァン、デリック・メイ、ホアン・アトキンス…名前を挙げたらきりがない。

限りないミュージック・ラヴを伝えたい、感じたい、共有しよう。
魔法の円盤は夜な夜な廻り続けた。
繋がれてゆくほどに独特のグルーヴがフロアを廻り、ありとあらゆる前衛的なカルチャーやヒストリーが勃発して、媒介を繰り返す。

「それはやがて一遍のアートになった」

DJ、DJを志す者は、昼にレコード・ショップ、夜はクラブへと集い、新たな音楽への感動を夢中になって探し続けていた。

時代は便利になっているらしい。
音楽は既に円盤の形をしていない。

ダウンロード・ビジネスが繁栄し、魔法の円盤は消えてゆく。
グルグルグルグル…と夜な夜な廻り続けた円盤は、平坦な熱と共に博物館へと追いやられてしまうのだろう。
あの重み、匂い、あたたかさ、柔らかさ、温もりを知ることは、単なるそれだけの魔法だったのだろうか。

時代が変わっても、始まりは変わらない。
私達があの頃のスピリットを忘れずに、魔法の円盤が奏でる音の魔術を繋ぎ続ければ。


私は「pool」のDJ達がヴァイナルを廻し続ける姿をみると胸が熱くなる。
ダンスフロアの真ん中で耳を澄ませば、魔法にかかってしまいそうだ。
あの音の温もりは特別な魔法。

レアなレコード、誰もが知っているアンセム、魔法の円盤に寄り添う人たち、可能性、揺るぎなき愛、世界は1分間に45回転のスピードで廻り続けている。

だからそのスピードを、安心感を、触発の瞬間を、私は「pool」で感じていたい。
今夜も「pool」で魔法の円盤はグルグルと廻り続ける。

もう一度はじめから、踊ってみませんか?


text : 川村由紀 (VENUS FLY TRAPP)

川村由紀 (VENUS FLY TRAPP)
DJ、音楽演出家、作家。イベント「サウンドコレクション」のプロデュースを経て、2001年に「灼熱」でCDデビュー。ルイ・ヴィトン、ドレス・キャンプ、ラブパレード・メキシコなど国内外多くのパーティ、ショー、スペースにて音楽活動を展開中。2007年、ヴィレッジブックスより「アスファルトの帰り道」(著:川村由紀)で作家デビューを果たす。
公式サイト http://venusflytrapp.com/